口腔がん検診

口腔がん検診の現状と今後の課題

口の中は見えるし、感覚も鋭敏です。そのため、早期に発見されることも多いのではないかと思われるかもしれません。しかし実際には、歯肉では6%、頬粘膜では8%、最も発見されやすい舌でも23%程度しか早期に発見されていないのです。
そのため、現在の口腔がんの検診は、問診と視診や触診などによる口腔内診査による検診です。典型的な口腔癌は、盛り上がったようなかたまりやシコリを伴う潰瘍(粘膜表面がえぐれて欠損が生じた状態)です。
その他に、粘膜が白くなり赤みを帯びている状態もがんが疑われることがあります。
口腔がん検診は各地方歯科医師会または地方自治体などの主催により行われており、検診方法も簡単なことから多くの方が検診を受けられています。しかし、未だに口腔がんに対する認識が広くないことから歯科の8020運動などと連動させて、地域、職場における歯科検診を有効に活用して、口腔がん・口腔前がん病変について啓蒙するとともに、口腔がん検診を推進しなければならないとことが今後の課題とされております。

舌がん

50~60代の男性に多くみられますが、30~40代で発症することもあります。
舌がんは、虫歯の先端のとがった部分や合わない入れ歯などによって、舌に慢性的な刺激が加えられると発生しやすいとされています。また、がんが発症して腫れた部分はそれらの刺激を受けやすく、急速に進行します。
舌がんの大部分は、舌の側面や裏側に発生し、舌の表面(舌背部)に現れることはほとんどありません。
初期には、粘膜の表面が破壊されてビランが生じたり、破壊が深部まで及んで潰瘍ができるケースもみられます。タダレやシコリなどが生じたり、舌の一部が白く盛り上がることもあります。
初期には痛みはありませんが、進行すると飲食の際にしみたり、ズキズキと痛んだりします。

さらに進行すると、物を咬んだり、言葉をはっきりと発音することができなくなる場合もあります。がんが舌のつけ根や咽頭部にまで広がると、舌がほとんど動かせなくなります。
舌がんは、自分で見たり、触れることができるうえ、比較的早期から、食事や会話のときに歯や食物に接触して痛みが現れるので、早期発見により治療が可能ながんといえます。
ただし、早い段階から頚部リンパ節などに転移しやすい傾向があります。リンパ節への転移が起こると、治癒が困難になるケースも少なくないので、舌の異常に気づいたら早めに口腔外科や耳鼻咽喉科を受診しましょう。

歯肉がん

歯肉がんは、舌がんに次いで多くみられます。
50~70代の発症率が高く、舌がんに比べて高齢者に発生しやすい傾向があります。
歯肉がんは、上顎より下顎に多く、大部分は白歯(奥歯)部に発生します。
歯肉がんの誘因としては、喫煙や飲酒、入れ歯などによる慢性的な刺激があげられます。
初期には、歯肉が腫れる程度で痛みはほとんどありません。
しかし、進行するに従って、小さな隆起、潰瘍やシコリなどが生じるほか、ズキズキと痛んだり、歯がグラつくこともあります。
腫瘍が大きくなると、表面が凸凹のカリフラワー状に盛り上がり、出血しやすくなります。

下顎歯肉がんでは、腫瘍が頬側に広がって、顔面が腫れることがあります。また、咽頭部のほうへ広がった場合は、下顎が動かしづらくなったり、口を大きく開くことができなくなります。腫瘍が骨を侵し、下顎の神経に達すると、下唇の麻痺や歯痛などが現れるケースもみられます。
一方、上顎歯肉がんは、頬側より口蓋側に広がりやすく、上顎骨が破壊されることも少なくありません。上顎歯肉がんよりも下顎歯肉がんのほうがリンパ節へ転移することが多く、腫瘍が大きいほど転移を起こす確率は高くなります。白歯部の歯肉がんでは、顎の下や頬のリンパ節に転移しますが、他の臓器への転移としては、肺に時々みられる以外はあまり多くはないとされています。

口腔底がん

口腔底がんは、50~60代に多く現れ、男性に圧倒的に多いがんです。口腔底は、文字どおり、口の底を指します。
がんは、特に口の底の前方部分に発生することが多く、喫煙や飲酒が誘因の一つとされています。アメリカでの調査によると、女性の喫煙者の増加に伴って、女性にも口腔底がんが増えていることから、特に喫煙との因果関係が指摘されています。
口腔底がんでは、初期には小さな潰瘍やこぶ状の腺病が現れます。粘膜が白っぽく変色して白斑が生じたり、充血による紅斑がみられることもあります。あまり痛まないため、かなり進行してから発見される場合も少なくありません。

口の底は狭いために、がんが周囲の組織に広がりやすく、発見されたときにはすでに舌や歯肉の他、下顎骨にまで浸潤しているケースもみられます。
がんが舌に広がると、舌の運動障害が起こります。
舌がん同様、頚部リンパ節へ転移しやすい点も特徴です。

頬粘膜がん

頬粘膜がんは、60~70代に多くみられます。上下の臼歯の周辺粘膜や口角のすぐ後方などに発生しやすいものです。
他の口腔がんと同様、喫煙や飲酒、入れ歯の不適合、熱い飲食物による刺激などが誘因としてあげられます。
初期にはビランや小さな潰瘍などが発生しますが、目立った症状はみられません。
しかし、がんが筋肉層にまで広がると、口がうまく開かなくなります。
さらに進行すると、皮膚や骨に浸潤し、顔が変形してくることもあります。顎下リンパ節や上内深頚リンパ節に50%程度の確率で転移がみられます。

口蓋がん

口蓋がんは、40代以降の男性に多くみられます。歯肉に近い位置の口蓋に発生しやすいがんです。
初期には、ビランが生じる場合が多く、進行するにつれて潰瘍となり、その周囲にシコリができることもあります。病状がさらに進むと、歯肉や鼻腔のほか、鼻腔と上顎のすき間 にあたる上顎洞などに達し、鼻腔から口腔まで組織を貫通するケースもみられます。
ビランや潰瘍が現れず、粘膜が腫れ上がってくるだけのタイプは浅頸がんとよばれます。症状に乏しく、進行がゆっくりで中には数十年かけてがんが大きくなることもあります。
口蓋がんは顎の下や頚部のリンパ節へ転移しやすいとされていますが、浅頚がんの場合は肺や骨に転移するケースもみられます。

[参考文献/資料]
昭和大学歯科病院口腔外科・口腔がんセンター (http://www.koukuugan.jp/index.html)